テーマは、ずばり、〈死〉を超える〈生〉、そして〈生〉を支える〈家族〉。三浦哲郎の原作を執念で映画化した熊井啓監督畢生の傑作と声を大にして伝えたい。
映画前半で繰り返し描かれる、哲郎と志乃それぞれの家族の不可解な死や失踪。暗く湿っぽい旧家にひっそりと住まう住人、陰鬱な雪混じりの空を舞う海鳥、冬枯れの野をゆく野辺送りの葬列……。みずからもそうした死の呪縛に囚われているとの強迫観念から、付き合いを始めてからも無条件に心を開き、互いの思いを受け入れることのできない二人。まどろっこしいまでの展開は、後半部、哲郎の故郷での結婚式を期に一変する。
家族のみのささやかな結婚式を終え、夜具にくるまってはだか同志で抱き合う哲郎と志乃。初夜の営みは、二人から〈死〉の軛を解き放つ行為であり、同時に〈生〉の力強いエネルギーを受け入れる行為に他ならない。一瞬、インサートする、祈り続ける哲郎の両親、姉の姿……。雪あかりの中、遠く聞こえてくる馬橇が響かせる鐘の音を聞きながら、窓辺に立つ二人の神々しいまでの美しさ。死の影が垂れ込める旧家に、新しい朝が訪れる。
翌日、汽車に乗って温泉に向かう二人。窓の外に広がる一面の雪景色の中に哲郎の家を見つけた志乃が叫ぶ――「私の家が見える!」。家族と満足にひとつ屋根の下で暮らすことの叶わなかった薄幸の志乃が、ついに見つけることができた〈家〉とは、これから二人が紡いでゆく〈生〉の舞台、すなわち〈家族〉の象徴なのだろう。