加山雄三氏主演の、異色時代劇「蝦夷館の決闘」であります。製作は東宝の傍系・東京映画。柴田錬三郎の原作を、古澤憲吾が演出。脚本は笠原良三、潤色に大野靖子の名があります。
時代は幕末。箱館蝦夷館の当主・次郎左衛門(島田正吾)が、露国(おろしや)要人の娘・ワルサ(アン・ストーン)を拉致監禁する事件が発生しました。この娘、名前はワルサですが実際は何の悪さもしてゐなくて、災難であります。ワルサを蝦夷館から取り戻す為に、公儀御用達の廻船問屋・越後屋(金子信雄)が手練れの男八人を集めます。そのうち一人は幕府の目付・本庄(仲代達矢)から直々に命を受けた公儀隠密の新兵衛(三國連太郎)で、この集団に潜り込んだのです。その目的は次郎左衛門の貯蔵する大量の砂金を奪ふ事でした。
仲間のヘマを逆手に取り、蝦夷館に入る事に成功した新兵衛たち。次郎左衛門の話では、露軍から武器弾薬を購入する為に砂金を送つたが、露軍は約束を破り武器を送つて来ないので、已む無く人質を取つたのだと。八人のうちの一人、三郎太(加山雄三)は次郎左衛門の娘・赤珠(倍賞美津子)の寝室に忍び込み、これを失神させ犯し、ワルサが監禁されてゐる場所へ案内させます。ワルサの口からは、露軍が送つた武器を越後屋が横領し、次郎左衛門を騙してゐるのだと云ふ事実が語られます。
上陸した露軍と対面した新兵衛は通詞として三郎太を同行、その際に三郎太は新兵衛の正体と目的を知り激怒します。二人は対立しますが、三郎太は斬りかかられて谷間に転落......
元は私腹を肥やさんとした金子信雄の行動が引き金となつてゐます。相変らずゲスな役が似合ふ役者ですなあ。それが原因で騙された島田正吾が露国要人の娘を拉致するのですから。
奪還の為に蝦夷館へ派遣されるのは、三國、加山に加へて安部徹、田中邦衛、谷村昌彦、高松しげお、江幡高志、大前均の八名。いづれも一癖も二癖もある、手練れ集団との触れ込みですが、それを発揮する場面が殆ど無いのが残念。特に高松・江幡はアイヌ娘を夜這いしてそれが発覚し、江幡は首を刎ねられて高松は生き恥を晒されて何も良いところがありません。
主演の加山は腕も立つしロシヤ語も堪能、武器弾薬にも詳しいと云ふ有能な武士。熊と取つ組み合つてもこれを斃すと云ふ離れ業も見せ、更に私欲には無縁で人間離れしてゐます。しかし高松しげおの仇を討つてやると云つて、倍賞美津子を犯すと云ふ一面も見せます。無論ロシヤ娘を救ふのが目的なんですが。
三國連太郎はまるで主役のやうにスクリーン縦横に暴れます。仲代達矢の使者として蝦夷館の壊滅を狙ひますが、加山の思はぬ抵抗に遭ひ、最期は腕を斬られてしまふ。斬られた腕が握る刀を、もう一方の腕で抜き取りまだ戦闘意欲を見せ、生への執念を感じさせる熱演。でも血が殆ど出てゐないやうです。
蝦夷館側は、島田正吾と黒沢年男・倍賞美津子の親子が中心。対露国で策を練りますが、どことなく人の良さが出てしまひ騙されやすさうな感じはありますね。黒沢は威勢が好いだけで思慮に欠けるし、倍賞は加山に一度犯されただけで「身も心も捧げる」態度に変化してしまふ。ストオリイ上では都合が良いんですけど、これでいいのか?と云ふ気にもなります。
クライマックスは蝦夷館軍、露軍、幕府軍が入り乱れての大砲撃戦。それなりのスペクタークルを展開してゐます。しかしどうにも盛り上がらない映画であります。突撃演出の古澤憲吾監督も、「シュートするゥ!!」なんて叫ぶ突破力はある人ですが、元元長尺映画(本作は131分)を纏める力量に疑問がある人(失礼)なので、不向きな題材だつたかも知れません。和製ウェスタンの作風ですので、岡本喜八監督だつたらどう撮つたかな、なんて今や意味のない事を考へた次第であります。