シネマヴェーラで始まった恒例企画“妄執、異形の人々”、今回は過去に上映されたことがある作品も多く含まれており、この映画も2008年の特集で観たことがある映画ですが、その時にも書いた通り、こういう映画を傑作と呼ぶのが相応しいかどうか、わたくしには疑問に思うものの、解説文にあるように“集団就職で上京したクラ子がトルコ嬢へと堕ちるまでの経緯を猥歌でつなぐミュージカル仕立てや、ラストのカー・チェイスなど、野心的な試みに満ちた”作品であることは否定しません。
主人公クラ子こと山川レイカが、川崎の工場職員からピンサロ嬢を経てトルコ嬢となり、さらには常連客・殿山泰司から金をせびり奪って自分の店を持つなど、のし上がってゆく一方、その山川に金を貸した後、首が回らなくなって自殺した殿山の娘である岡田奈津子が、勤めていた警察を辞めてトルコ嬢となり、山川の弱点を握って転落させようと図る中、そんな二人の中間地点に立つ女として、記憶喪失のトルコ嬢・荒木ミミを登場させ、結局はクライマックスで山川と岡田がカー・チェイスを繰り広げたのち、山川がなんとか全財産の一部を持って燃えた車から逃げ出したところ、横から車で登場した荒木ミミが、あっさりその金を奪って走り去るという形で、物語の美味しいところを荒木が奪うかと思いきや、このあと、貧しい暮らしをしてきた荒木の弟妹たちが土手でお札を紙飛行機にして飛ばすというエンディングを用意するあたり、いわばアナーキーな作劇で観客を突き放す点で、70年代的なるものを総括しようとする意志が感じられました。