明治40年代の遊郭に発生した火事の顛末,炎上に至った経緯が描かれている.吉原は別天地でもあり,制度と権力によって異化された場所でもある.公娼を監察する訛りのある巡査(緒形拳),検梅する医者(山本清),バイオリンをかき鳴らす演歌師(竹中直人),被写体を卑猥なジェスチャで笑わそうとしている写真屋(大村崑)といった怪しい人々が出入りし,たむろする場でもある.しかしここは公園ではない.
久乃(名取裕子)はいい匂いがするらしい.彼女がこの吉原にやってきて物語が始まる.「花魁」と呼ばれている女たちのひとり,九重(二宮さよ子) は年季明けが目の前になっている.ナンバーワンの彼女に続く花魁は,吉里(藤真利子)や小花(西川峰子)である.病気を患いふらふらとしている.こうした花魁がそれぞれの原因によって転落し,久乃はその素質を生かして,この天地に跳躍していく.
遊郭の窓には色々な色のガラスが嵌められている.街路を救世軍が歌い,演奏をしてデモをしている.吹き抜け空間から司令塔にいるおちか(園佳也子)がこの遊郭を差配をしている.スミ(佐々木すみ江)や楼主の伊三郎(山村聡)が主人然として,経営者然として従業員や商品でもある女たちを管理している.大きな将棋の駒を鳴らし,由松(左とん平 )が口で変な音を鳴らす儀式が行われ,その日の商売がスタートする.その由松の客引きの口上も聞こえている.ふのりを瓶詰めにして,隠部に塗っており,客たちを騙している.学生の宮田(井上純一)の前で喚いたり泣いたりしても,九重は激情を隠さない.雨が降っている.吉里は歌を歌い,泣いている.客の野口(益岡徹) に入れ上げている吉里がいる.セミの声が聞こえ,店の前には爽やかな風が吹いている 音が静かになり,剃刀を振り回していた吉里は,その刃で首元を切り開いたらしい.菊川(かたせ梨乃)という女性は,ほかの遊郭への移籍している.「にわか」の賑やかな音曲が聞こえている中,小花は「噛んで,噛んで」と血を吐きながら狂っている.
古島財閥の若(根津甚八)に久乃がつくと,物語が動き出そうとしている.吉原でも滅多に催されることのない「花魁道中」が若の金と久乃の企画で執り行われようとしている.
「嘘でいいじゃないか」という若がいて,日本そのものを嘘と言い切る.それでも「淫売の本当」というものが嘘の中のどこかにあるらしい.