字幕は馬のセリフとしても見える.字の斜め上には馬の顔のイラストがあって可愛い.2頭でいることもあれば,1頭でいることもある.ケンタッキーの血をもつ2頭の母子の馬がダービーに挑戦する映画でもある.
親子という点では,馬のほかにも2組の親子が登場する.マイク・ドノバンとリトル・マイク(ウィンストン・ミラー)ことダニー・マイクの父子である.また,ボーモン(へンリー・B・ウォルソール)とその娘である.時間の経過があり,親から子へと世代も変わっていくように見える.そうした転機としては,親の「バージニアの未来」号の転倒がある.これによって馬主のボーモンは破綻し,調教師のドノバンも骨折したこの馬を射殺しなければいけなくなる.
こうしたそれぞれの苦境にあってドノバンのある選択が未来への布石となる.ドノバンは,銃を携えて厩舎に向かい,骨折した脚の痛々しい「バージニアの未来」号に向かう.銃声がして,その母馬の部屋の外では弾薬の煙までが吹き込んでくる.しかし,実はドノバンは殺していなかったという筋立てである.
ドノバンは調教師を辞め,交差点で信号の代わりとなる交通整理をしている.彼は,馬の群れにあって馬でもよけるかのように,行き交う車を避けている.そして厳格に交通ルールその他を適用し,違反した者たちをチェックしている.中には買収にも応じない者もおり,路上に唾を吐いている.
春,再びダービーの季節がやってくる.春の野と林の中では馬も心なしか踊っており,走り,佇み,跳び,寝転んでいる.競馬場では人物の後ろを競走馬たちがぞろぞろと歩いている.そうして騎手になったダニーがきっかけを与え,ボーモンとドノバンは再会する.ボーモンの娘は,ボーモンを後ろから手で目隠しをする.その姿にドノバンは涙する.ドノバン前には「パパ」と書かれたカップが置かれている.ボーモンは娘の手をさすり,匂いを嗅ぐような仕草までしている.ドノバンはその父と娘の姿を,おそらく馬の親子でも見るようにして見ている.
雨が降ると合羽を着て整理にあたっているドノバンがいる.
路上に立つドノバンは,どうやら合羽を雨に濡らしている.交差点を行き交う車に紛れ馬車がいて,その馬の尻のあたりを撫で叩くボーモンがいる.その手つきによってその馬,かつての「バージニアの未来」号はかつての主人を察する.しかしボーモンは鈍感なせいか察していない.馬車は,しかしルールに従い,交差点で進まなければならない.こうして三者は交錯する.濡れそぼった「バージニアの未来」号は今のオーナーに食べさせてもらえない.ドノバンはこの馬を取り返しにオーナーの徒党三人組と対決する.帽子を脱いで戦い,戦い終わると馬に乗り,帽子を被って去っていく.ドノバンは路上で颯爽と乗馬している.「バージニアの未来」号はドノバンと競馬場に乗り込み,ダービー馬となった子の「連合」号と対面する.「連合」号は興奮して荒れているが,騎手のダニーがそれを制し,レースを駆け抜けていく.
馬は乗せることで,あるいは触られることで,人に接する.人は馬に乗ることで,あるいは触ることで馬に接する.こうした接点には言葉と運動があり,あるいは無言もある.娘が父の目を隠すとき,娘は父に声をかけただろうか.