富田岩伍(緒形拳)はクズである.そのクズっぷりが物語になり,財をなし,罪を作る.子をつくる,女をつくる.彼の旺盛さは尋常ではないが,周囲の人間としてはたまったものではない.そうした岩伍と対等でいられるのは,大貞(草笛光子)という女傑である.この女性は,芸妓を取りまとめ,高知の夜の文化を取り仕切っているようでもある.ここに芸妓としての資質やら境遇やらを見込んで,仕込み,売り込んでいく女衒が岩伍であり,彼と大貞はクズつながりの,腐れ縁とも言える.
岩伍の一応の正妻は,喜和(十朱幸代)であり,キャメラは主に彼女が高知で過ごした戦前の30年ほどの時代に寄り添う.この夫婦の子のような存在として,染勇(名取裕子)がおり,その妹分の菊(石原真理子)がいる.また,娘義太夫の名手,巴吉(真行寺君枝)との間にもうけられた綾子(高橋かおり)がおり,岩伍を載せた人力車を引いていて,凶刃に命を失った車夫の妻(白都真理)がいる.こうした女性たちは,岩伍に追放されるかのように悲しげな顔をして,散っていってしまう.子たちも母性の塊のようでいて,意地もある母を慕い,岩伍の怪しい稼業も災いして,父には懐かない.また,染勇のように父的な存在の岩伍に男としての魅力を感じてしまう女性もいる.
高知の権力争いも物語のもう一つの筋にもなっている.谷川(成田三樹夫)がのさばっているものの,岩伍の権力はやがて谷川に拮抗するまでになる.男たちは,威勢もいい.息子のような存在の兄弟も,一人には喧嘩で斃れ,一人は逮捕され,刑を喰らっている.男たちの虚勢と女たちがたまに見せる妖しげな姿態が画面を少しだけ熱くしている.かと思えば,重要な場面ではただならぬ雨が降り,例えば傘をさす喜和に打ち付けている.知性や教養が近代を開きつつある時代にあって,クズのクズっぷりは,生活の知恵のようにも見えてくる.その鈍感と野生と性欲とは,貧困から脱する生活の必需でもあったに違いない.