この世界は点滅しているかに見える.小四(張震)の母(金燕玲)だっただろうか,室内の照明を子が点けたり消したりすることを咎めている.時に世界は暗転し,闇に包まれてしまう.それは照明のスイッチを切るからでもあり,照明器具をぶち壊すからでもあり,停電するからでもある.手元に蝋燭が灯されることもあり,山東(楊順清)はそれを頼りに食事を摂っていることもある.また,小四は懐中電灯を学校と隣り合う映画スタジオから盗み出し,夜のどこかを照らすことがある.それでも暴力的な闇は抗いがたく,訪れてくる.チーム「小公園」のリーダーであったハニー(林鴻銘)は,セーラー姿で南の方からこの街に戻ってくるが,山東によって闇に投げ出されてしまう.その闇への意志は,誰の意志なのだろうか.
スタジオでの映画の撮影風景は,俯瞰的に示され,化粧や衣装があり,女優や監督がいる.小四は高音の声域を持つリトル・プレスリーこと小猫王(王啓讃)とスタジオの上部に忍び込んでいるため,撮影を俯瞰できるのであり,小四は後に監督に対し「何が映画か」とその薄っぺらさを突きつけている.
「我」あるいは俺がいて,家があり,国家がある.国家の走狗として子どもたちは学校に縛り付けられ,学生となっている.また,退学処分を受けても,学に拘らなけれならない事情がある.国家は斉唱を押し付け,学生がフリーズしている最中にあって,ハニーはその静止の中に動いている.彼が闇に放り込まれたのもその罰だったのだろうか.小四の父(張國柱)も学校教育に疑念を抱き,小四に対する学校の処分に抗議をする.道徳的な家族は小四を諭そうとするが,あまり響くわけでもなく,ただ聖歌がその場に響いている.経済や歴史の権化のような 小馬(譚至剛)が「兄弟」の認識で小四の前に現れ,アンニュイなヒロイン,小明(楊靜怡)をその経済力で平らげている.
ラジオは叩き,水平を調整すると時に聞こえてくる.バスが走り,戦車とすれ違い,オートバイや自転車が走る.また,台風がきて雨降る夜には,傘と合羽で武装した集団が現れ,輪タクに乗っている.バスケットボールが遊ばれ,ビリヤード台で玉が撞かれ,テニスコートも見えている.野球も盛んで,バットは凶器としても現れる.日本による占領の象徴として幾種類もの刀も見えている.そして製氷の技術も導入されており,うちわや扇風機とともに,その気候のありようを示している.庭には椿が植えられ,愛でられている.こうした背景や事情は,家や国家のさらに外部からやってきて,蚊帳の内側や押し入れの中に逃げ込んだところで,逃れるべくもないものたちとして現れている.
英語が聞こえる.翻訳される.叫び声や歓声がどこからともなく声の音として聞こえている.手元で木を叩く音が不愉快に聞こえ,さらに床を叩く,木靴か革靴の音がところどころで響いている.また,ブラスバンドの音楽がやや場違いに,しかし時にタイミングよく聞こえている.大きな必然と小さな偶然が多数の人生を織りなしていく.