こちら、監督:アウグスト・ジェニーナ「ベンガジ Bengasi」(1942)のレビューです。枢軸国イタリア側から敵英軍を描いたプロパガンダ映画
2024年2月7日に鑑賞。DVDにて。1時間35分31秒。スタンダード・黒白。一部、英語。評価=57点。
第二次世界大戦中の1942年公開の枢軸国イタリア側から敵の英軍を描いた戦争プロパガンダ映画である。
イタリア領の北アフリカのリビアのキレナイカが英軍に迫られ、次に英軍が迫るベンガジが舞台である。トリポリ(イタリア領)からイタリア本土に市民は逃げようとする。
ヴェネチア国際映画祭で「ムッソリーニ杯」を受賞している。戦中でもベネチア国際映画祭はやってるんだ。開巻の字幕『PREMIATO CON LA COPPA MUSSORINI ALLA MOSTRA INTERNAZIONALE D'ARTE CINEMATOGRAFICA DI VENEZIA 1942』
開巻の字幕『ベンガジ及びキレナイカの山地に存在したイタリア人のドラマである。戦争中に犠牲を払い耐え抜いた女性たちに本作を捧げる』と、大義名分が並ぶ。『本作の歴史的事実は文献によるもので、登場人物には実在したモデルがいる』→と、登場人物たちは創作ではなく、「実在してる」という観客への洗脳操作がなされる。
役者たちの演技、構成、撮影はそれなりに良いのだが・・・。随所に多用される「敵国連合軍の英軍」に対する描写があまりにも類型的で、反イギリス軍・兵士の描写が稚拙である。まあ、戦中のプロパガンダ映画を撮影し、国民に見せて戦意高揚をはかるという目的の映画である。
戦争になると政府がかかげる「見せかけの戦争目的」は昔も、今のロシアのウクライナ侵攻も全く同じである。イタリアの総督?「★大英帝国の支配下にあるアフリカに風穴を開けた。我々は負けない。イタリアはいつかこの地に戻る。これまでの努力と文明が刻まれた土地に」現地人「忘れませんよ。イタリアの善意を」→★自分たちイタリア人がリビアの現地人を支配しているということに、全く思い至っていない。→★これが戦争を仕掛ける側の論理である。大東亜共栄圏を目指した旧大日本帝国軍部と全く同じだ。
★[イタリアは悪くないという類型的描写]
息子を探す母親→兵士の息子は戦争によって失明。2人が故郷の田舎に帰る→英兵士による略奪で父親は殺される。英軍機による子供の死。親子の愛。夫婦愛。空襲によって地下防空壕に避難する人々。赤ちゃん、子供たち、老夫婦、傷ついた兵士たち。脚、腕を切られる兵士たち(収容されたのは英軍病院なので、切ったのは英人医師か)
逃亡イタリア兵を捜索に来た英兵が酔っぱらっている。「おい、俺の好みの女だ」ありえん。トブルクの英軍捕虜収容所へ護送される時に脱走し、レジスタンスに加わったベルティ大尉とフィリッポを捕まえに来た英兵たちが部屋で酒を見つけ「おい、酒だぞ」と全員が任務を放棄し酒を飲みだす。ありえん。
ラストはベンガジから撤退する英軍が仕掛けた地雷が爆発して市民が犠牲になり、町が破壊される。→★ここで登場してる市民・兵士はイタリア人だけで現地人の描写は全くない。
ラスト。「アジュダビヤから来たドイツ軍が英軍を追い払っている。皆、銃を取れ!」英軍とドイツ軍の戦闘の描写はない。英軍はすんなりベンガジから撤退して行く。「英軍は去ったぞ!」皆が街中に出て抱き合う。イタリア国旗とナチスドイツの旗を振る群衆(イタリア人たち)の行進。それを見る現地人(アップはない。ロングで映るだけ)。
バルコニーのポデスタ「英軍は去った。皇帝陛下の名においてイタリアは主権を取り戻した」イタリア軍部隊の行進。歓喜で迎える群衆。映っているのはイタリア人だけだ。→おいおい、リビアを占領支配しているという認識が全くない。
画面では、製作:Renato Bassoli、Carlo Bassoli、監督・脚本・脚色:Augusto Genina、脚本協力:Ugo Betti、Alessandro De Stefani、音楽:Antonio Veretti、撮影:Aldo Tonti、美術:Salvo D'Angelo、Set Decoration:Leopoldo Zampetti、Camillo Parravieini である。
出演は、フォスコ・ジャケッティ Fosco Giachetti(エンリコ・ベルティ大尉)、Maria de Tasnady(妻カーラ・ベルティ)、Amedeo Nazzari(フィリッポ/イタリア司令部の将校/英軍の通訳として英将校に近づく)、Vivi Gioi(ジュリアーナ/地質学者/ナポリ出身/東アフリカのアスマラからベンガジへ/フィリッポと恋仲になる)、Laura Redi(ファニー/本名マリア/下宿屋の女/アントニオを匿う)、Fedele Gentile(アントニオ/逃亡イタリア兵)、Guido Notari(ポデスタ/駐留イタリアの総督?)、Amelia Bissi(ジョヴァンニの母/ケベルから来た農民)、Carlo Tamberlani(ジョヴァンニ・ガラシ/イタリア兵失明/農民)、Leo Garavaglia(医師Malpini)、?(ウィルソン将軍/英リビア派遣軍司令官)ほか。