モラルの一線を越える/越えないの描写が必要だったのでは
1959年、米国南部ニューオーリンズ。
実業家のマイケル(クリフ・ロバートソン)は自邸で妻エリザベス(ジュヌヴィエーヴ・ビジョルド)との結婚十周年記念の祝宴を開いた。
がその夜、妻と幼い娘が誘拐され、警察による追跡の過程で事故が発生、妻と娘を同時に失ってしまう。
それから16年。
共同経営者ロバート(ジョン・リスゴー)の勧めでイタリア・フィレンツェを訪問したマイケルは、大聖堂で壁画修復の助手をしている若い娘サンドラ(ジュヌヴィエーヴ・ビジョルド、二役)と出逢う。
亡き妻とうり二つのサンドラに妄念にも似た思いを抱くマイケルは・・・
といったところからはじまる内容で、ヒッチコックの『めまい』に着想を得たような物語はデ・パルマとともに原案を担当したポール・シュレイダーによる脚本。
サンドラに対するマイケルの妄念にも似た思い(原題「OBSESSION」は、ここからとられている)を描いた中盤がまだるっこしく、クリフ・ロバートソンの辛気臭い演技がさらに観ていて陰鬱にさせる。
ま、察しのいい映画ファンならサンドラの正体はすぐに気づくところなので、もう少しモラルの一線を越えるか越えないかといった別のサスペンスの盛り上げ方もあったろう。
後半、再び誘拐事件が発生し、事件の黒幕も明らかになるあたりは、意外とあっさり描かれていて、ここいらは映画としてのメリハリはいいけれど、それにしても犯人の陰謀、えらく深謀遠慮だなぁと思わざるを得ない。
最後の最後、空港での一幕も、中盤に一戦を越える/越えないの描写が抜けているので、心情的には、わかったようなわからないような盛り上げになっている。
ヴィルモス・ジグモンドの撮影、バーナード・ハーマンの音楽も一級なだけに、ちょっと残念な思いが再鑑賞でしました。