ドイツ表現主義の映画らしい。
昨年(2024.11)に川崎賢子著「キネマのと文人-『カリガリ博士』で読む近代文学」が発行された。
映画「カリガリ博士」が公開された頃は、第一次大戦やパンデミック流行後、関東大震災直前あたりの時代。
この本によれば、多くの文化人や文人が「カリガリ」に刺激を受け、論評している。一大ムーブメントになったような勢い。そして、この映画にインスパイアされた作家がいかに多かったか。
目次だけをみても、佐藤春夫、江戸川乱歩、谷崎潤一郎、内田百閒、芥川龍之介、夢野久作、尾崎翠、稲垣足穂など、目もくらむような作家たちが「カリガリ」に対峙している。
谷崎潤一郎はこう評論している。
「彼の幻想の原となった所の人物が現実にも生きて居る人々であり、而もそれらの多くが等しく狂人である所に、此の物語りは一層の余韻と含蓄を持つて居る。なぜなら、観客はあの不思議なフランシスの夢が終りを告げて場面が再び病院の庭へ戻って来た時、さうしてそこに夢の中の種々なる人物が狂人として徘徊するのを見せられた時、その一つ一つの狂人の頭の中にも亦フランシスのそれのやうな幾つもの奇怪なる世界があるのであらうことを連想せずには居られないからである。観客の見たのは或る一人の狂人の幻覚であるが、同時に無数の狂人の幻覚を考へさせられる」と。