この女優、このヒロイン、何だか儚(はかな)くも切ない
ネタバレ
トップクレジットが終わると先ずジョアンナ・シムカスのアップから始まる。
これは彼女が演じるレティシアを描いた映画だと思う。見た目にはアラン・ドロン、リノ・ヴァンチュラがプロペラ機の低空飛行訓練から最後の銃撃戦に至るまで主筋を演じている。だが、2人の男の行動がポジだとすれば、2人の男の心にネガとして浮かび上がってくるのがレティシアだ。
2人の男がレティシアの郷里を訪ねていく後半になって、彼女の出自からの半生が哀しみや切なさとして滲み出てくる。男2人の友情よりもなお、銃撃戦の迫力よりもなお、この映画を観終えたあとに残るのは、彼女の生きてきた名残りである。ユダヤ人として生まれ、両親を強制収容所で殺され、養父母に育てられ、家出してパリに出て、男2人と出会って宝探しの冒険旅行に出て、そして...。その美しさと純粋さと逞しさと明るさを2人の男は博物館に働く男の子の中に見たに違いない。
男2人の物語だけなら多くのアクション映画で見られるが、他の映画から抜きん出るものがあるとすれば、レティシアの面影を2人の男のネガとして大切に描いたところにあるように思う。
男2人の心に残ったレティシアの面影は、この映画を観終えた観客の心にいつまでも消えない切なくも愛おしい情感と等価になっているのではないか。この映画を何度も観たというレビュアーが何人もおられるのも分かるような気がした、もちろん私なりにではあるが。
演じた女優ジョアンナ・シムカスは1971年、28歳で引退した。この女優、このヒロイン、何だか儚(はかな)くも切ない。