昨年、アラン・ドロンが亡くなってちょっとあの美形を見返したいなと思い先日、メルビルの『サムライ』なんか見てみたけどやっぱりいい。惚れ惚れする。長い銀幕の歴史の中で色褪せない俳優はいるものだし、その俳優にピッタリの名作というものはある。その代表と言えるのがスティーブ・マックイーンと『パピヨン』。
『パピヨン』と言えばテレビの洋画劇場だ。初見を含め子どもの頃から繰り返し見てきた。吹き替えでないパピヨンを見たのはそうとう大人になってから。初めてスクリーンで見た時は「こんなに長かったっけ?」と。吹き替えとカット版がスタンダードになってたから。
何よりスティーブ・マックイーンの運命に抗しようとする不屈の演技が素晴らしい。国家、司法、看守、闇商人、そして神に仕えるものとしての聖者。あらゆるものに裏切られても自由を求める信念を変えない男を演じている。最後はこの監獄島を取り巻く自然に拒まれてもなお挑み続ける。2年間の過酷な独房生活から生還後も、再び収監され5年間の拘束。老けのメイク、身のこなしにもあらためて驚きを持って見てた。ドガ役のダスティン・ホフマンの演技も負けていないと思う。国債など偽造で貯めた資金を背景に特権的な囚人意識がパピヨンの男気に触れ、何より彼との友情を大切に考える男に変わってゆく。彼の境遇も同じく過酷ではあるが立ち居振る舞いがどことなくコミカルなぎこちなさを湛えている。これは、ホフマンにしかできない演技。作品にこの二人をキャスティングできた時点でほぼほぼ成功といえる。
ただ今回、マックイーン、ホフマンの演技の素晴らしさだけを感じたわけではない。この物語ではパピヨンの境遇、不撓不屈の精神力にあの袴田巌さんの不安と苦しみに耐え、その生きる力、その闘志を重ね合わせて見ざるを得なかった。どこかの物語は今も社会のあちこちに現実として存在する。