『ベルリン・天使の詩』は1988年ロードショウ公開の時に見てからずっと見ていなくて久しぶりの再見。初見時、人の心の奥底に湧き起こる声を無作為に聞いているうちに激しい眠気に襲われたのを覚えている。だからこれが連続30週を記録する大ヒット作になったのには驚いた。自分としては「ミニシアターブーム」がファッション化してたからだと勝手に解釈していた。その昔、渋谷区の桜丘地区にあり、かつて日欧協会と呼ばれていたユーロスペースではニュージャーマンシネマの監督作を多数取り上げていて学生時代に足繁く通ったがこうしたファンだけではこれだけのヒットを導くことは出来なかったであろう。
昔話はさておきBlu-ray版で見たがモノクロもカラーももの凄く映像が鮮明でびっくりした。だから再見の第一印象は、西ベルリンの街を浮遊感あふれる見事なカメラワークで切り取った傑作とでも言おうか。
ブルーノ・ガンツ演じるダミエルとオットー・ザンダー演じる親友のカシエル。この二人の天使の視点で西ベルリンの街とそこに息づく人々の暮らしが語られる。天使の視点からするとジーゲスゾイレに登り、黄金の天使の横に腰掛ければ西ベルリンくらい俯瞰できるのかな?ガイドブックによると高さが69メートルあるらしい。天使には人々の心の声は聞こえても人が現世で五感で味わう喜びや痛みを直接感じることができない。だから世界はモノクローム。その代わりに永遠の命がある。聞こえるけど感じられないことに嫌気がさしていたダミエル。人間になる決心の背中を押したのはサーカス団の空中ブランコの曲芸師マリオンへの恋心。現世ではパッと画面がカラーになる。この使い分けが今見ると本当に効果的で見事。
あと面白いのはピーター・フォークが本人役で出演しているところ。ベルリンの老若男女、子どもからもコロンボ!、コロンボ!、刑事さんなどと呼ばれていてドイツ、ベルリンでもいかに人気があるかがわかる。彼の設定もいい。元天使で、見えない天使を感じて遠慮なく話しかける。ひと足先に人間になった先輩は天使に優しい。彼が交信するシーンはホッとして心あたたまる。ベンダースは、こうして思いがけない発想を作品を取り込むのが上手い人。
もう一つベンダースの功績を。本作で失われゆく街を映像に遺すという偉業も成し遂げた。撮影が行われたのは1987年、まだ壁が存在している時。その後、壁の崩壊と共に急速にベルリンの風景は変わってゆく。だって映像ではポツダム広場はほとんど原っぱだし。ここは人ばかりでなく、風景というものを意識し、こだわり抜いてきたベンダースらしさの賜物。彼に『PERFECT DAYS』で東京の街を撮ってもらえたことは日本人にとっても一つの財産といえよう。