ここも宇宙の惑星ではある.が,こことはどこなのだろうか.どこもかしこも宇宙に見えるし,実際には宇宙である.しかし映画には宇宙は大して映っておらず,所詮は地球であり,地上であり,日本であり,大陸のどこかであり,セットやスタジオである.にもかかわらずやはり,ここは宇宙の惑星である.
丸窓が人物の脇に見えている.窓の外がのぞかれる.すると海に波立つ様子の俯瞰らしき映像が挿入されるが,実際には窓の外は真っ黒であったり,後半は光に溢れすぎていて真っ白で何も映っていない.それでもそこは宇宙であるらしい.この丸窓を「ソラリスな窓」と取り敢えず名付けておこう.
動いていなさそうな水中にあって,水草が揺らめいている.微動だにせず立ち尽くす男の中にあって,やや視線が動いている.眼球も窓であるには違いない.クリス(ドナタス・バニオニス)には最後の日が迫っている.クリスの父(ニコライ・グリニコ)は自らの死を予感している.二人の間には窓があったり,なかったりする.その関係はラストシーンでも継続する.無表情の母も涙を流す.ベルトンというソラリスの体験者がその神秘を語る.彼はスクリーンの向こう側に白黒でいたり,こちら側にいたり,車を運転しているのかしていないのか,連れ出した息子とともにみすぼらしく現れている.動物たちもいる.馬がいる.鳥の声や虫の声が聞こえる.こうした動植物は,無期的な宇宙では地球の名残りのようにも見える.メタンという犬が吠える そしてまた馬の視線に戻り,時には耳のクロースアップがある.池の水で手を洗う音が聞こえる.クリスはやがて汚れた手を洗わなければならない,そして草を踏む足音が聞こえる.有機物の音に寄せて,宇宙ステーションでは紙のびらびらが換気口に取り付けられ,葉ずれの音が再現される.天気なのに急に雨が降り出す.テラスのテーブルに用意したお茶が雨に打たれている 燃やされる書類がある.やがて屋内も雨漏りするであろう.
ヒロシマの予感がある.海は脳でもあるらしい.宇宙はどこまでも不安定である.霧のうちに庭が見えるという.妙な電子音も聞こえる.騒音と高速道路もやがて色づき始める.青みがかっているがやはり世界はモノクロでもある.
3人しか残っていないステーションにクリスは来ている.ブーツの紐が解けている.後には背中の紐を解こうとするが,うまくいかないのかハサミが入れらる.3人のうちの1人,スナウト博士(ユーリー・ヤルヴェト)が現れる.ボールが転がり,歌声が聞こえる.死んだギバリャン(ソス・サルキシャン)とラボに篭りっきりのサルトリウス(アナトリー・ソロニーツィン)も現れる.チューブ型の通路や湾曲する壁にも局部の性的な感覚がある.メッセージビデオが残されている.灰とライターがある.クリスが外をのぞいていると画面いっぱいに闇が広がる.白い窓の光もやがて画面いっぱいに拡張するだろう.女性や子供の姿が見える,死体もついでのように見える,鈴のような音が聞こえる.ガラスか金属が割れる音や揺れる音が聞こえる.写真の女性ハリー(ナタリヤ・ボンダルチュク)も動いている.彼女が切り傷だらけになると,クリスは汗をかいている.炎が上がり,宇宙服を着たハリー小型ロケットが発射される.性的にも見える.
眠りと義務が語られる.蝋燭の火も見える.雪の上で火が焚かれている.ブリューゲルの絵が雪景色に重ね合わされる.ハリーの凍死した姿を革ジャンとパンツの姿で見ているクリスがいる.良心としてのお客であるハリーが痙攣しながら復活する.人類と人間,そして地球まで,大風呂敷が広げられる.花があり虫の声も聞こえる.そして母もハリーと交代するように現れている.宇宙的感覚とされ,海に島が生まれる.既に凍ってしまった池には動きがない.