ブルックリンで小さな煙草屋を営むオーギー。
オーギーの店の馴染み客で作家のポール。
自動車に轢かれそうになったポールを助けた訳ありの青年トーマス。
古びたガソリンスタンドを経営する片腕が義手のサイラス。
それぞれに事情を抱えながらも、前に向かって生きていく人々の物語。
とりたてて大きなドラマが展開するわけではない。
が、ひとつひとつのエピソードが心にじんわりと響く。
特にオーギーの語る物語が印象的だ。
彼は毎朝同じ時間に同じ場所で写真を撮り続けている。
その数は4000枚に達している。
彼が写真を撮ることになったきっかけは後半に明かされるが、何故彼がその場所で写真を撮り続けているのかは曖昧だ。
彼はそれを自分の一生の仕事だと信じている。
そして彼が撮った写真の中には、銀行強盗に巻き込まれて命を落としたポールの妻の姿があった。
人生はおそらく楽しさや嬉しさよりも、苦しみや悲しみの方が多い。
そして人は大なり小なりその辛さを独りで抱えて生きている。
この映画は敢えて彼らの悲しみや苦しみのエピソードを、観るものの想像力に委ねている。
どこか達観しているように見えるオーギーにも、かなり辛い過去があったはずだ。
かつてのオーギーの恋人ルビーが、彼に助けを求めるシーンも印象的だった。
彼女の娘は麻薬中毒に陥っていた。
おそらく娘の父親はオーギーではない。
しかし、ルビーは父親として娘を助けて欲しいと頼み込む。
そしてオーギーは自分が父親でないことを承知の上で、ルビーを助けようとする。
オーギーは粗野なところはあるものの、何だかんだでお人好しだ。
そして彼の人懐っこい笑顔に心を掴まれてしまう。
おそらくこの映画の感動の正体は、オーギーの生き方にあるのだと思う。
人生は苦しいものだが、それでも生きるに値する。
それはオーギーのような無条件で寄り添ってくれるような相手に巡り会えるからだ。
「秘密を分かち合えない友達なんて、友達と言えるか?」
「それが生きることの価値だ。」
エンドロールで描かれる、オーギーの物語も感動的。
このクライマックスにすべての感動が集約されていると言ってもいい。
個人的にはこのオーギーの役が、ハーヴェイ・カイテルのベストだと思う。
静かだが言葉に深みのあるポール役のウィリアム・ハートの存在感も印象的だった。