世界中でも第一のモダン文化の大都市たるニューヨーク市の一角に時勢遅れの区域があって、そこではディロン爺さんという昔気質の老骨が昔ながらの鉄道馬車を走らせていた。忙しい今の時勢に乗客も少なく爺さんには儲けという程のこともなかったが、相変わらず爺さんはこつこつと日に幾回か型どおりに運転していた。ところが某鉄道会社の重役ウィルトンはこの鉄道馬車を買収にかかったが爺さんは1万ドルでなければ売らないと頑張り通していた。このディロン爺さんにはジェーンという可愛い年頃の孫娘があって綽名をスピーディーと呼ぶハロルド・スウィフトと恋仲であった。スピーディーは綽名通りの機敏な軽快な速妙な青年だったが大の野球狂で勤め先が長続きせず、朝に職を得れば夕にこれを失うという調子だった。そして失職しても楽天家のスピーディーはジェーンを伴ってコニイ・アイランドは遊びに行ったりしてしごく暢気だった。スピーディーは最近では自動車運転手となって速力違反で幾度もお巡わりさんにお目玉を頂戴した挙げ句本塁打王ベーブ・ルースをお客さんにすることが出来たので有頂天になり、全速力でヤンキー野球場へ乗り込んだ。そして商売そっちのけで野球見物をやったが、はからずも彼はかのウィルトンが多勢の無頼漢を雇ってディロン爺さんの鉄道馬車を横奪しようと企んでいることを知った。ここにおいてスピーディーは翌日爺さんのかわりに鉄道馬車の御者となり、町の商人達の助勢を得て無頼漢共を撃退した。その翌日は単身で盗まれた馬車を奪い返してきたスピーディーの手柄に恐れ入ったウィルトンはついに大金を出して正式にディロン爺さんの鉄道馬車を買収したのであった。