敗戦の痛手から日本が立ち直り始めた昭和22年の満月の夜。とある活気ある町並みに、ボロボロの軍服に身を包み、顔中に包帯を巻いた男(板尾創路)がやって来る。男は客の笑い声に導かれるように寄席小屋へと足を踏み入れ、何とそのまま高座に上がってしまう。どうやら男の正体は、落語家・森乃家うさぎらしい。真打ち目前まで行き、将来を嘱望された人気若手落語家だったが、戦争に召集され戦死したと思われていた。彼の突然の帰還を歓喜して受け入れる森乃家一門・天楽師匠(前田吟)の娘、弥生(石原さとみ)。将来有望なうさぎと結婚の契りを交わしたかつての恋人である。ところが男はすべての記憶を失くしていた。かつてうさぎが使っていた部屋に住み森乃家一門としての生活を始めたものの、男の口からは何も語られない。だが、自分が書き残したという帳面を受け取った時、不意に十八番だった古典落語“粗忽長屋”を呪文のようにつぶやき始める。まもなく、男は森乃家小鮭という新たな芸名で高座に復帰。客も拍手もまばらだったが、やがてその個性的な芸風が人気を集めていった。そんな折、もう一人の男・岡本太郎(浅野忠信)が戦場から帰ってくる。その姿を見て、激しく動揺する弥生。戦地から舞い戻ったふたりの男。ひとりの女。闇夜に輝く月。彼らの数奇な運命のゆくえはいかに……。