戦国時代の頃、三好家の浪人石川五右衛門は性来の臆病から戦いを逃げまわって野武士になり果てていたが、女房のお種は野末の石神様に願をかけ男の子を生んだ。人並はずれた力持であったが、あまりの貧しさに野放しで育てたので、純情無垢な人間だったが、人間世界のことは何も知らずに育った。六歳になる妹のおふうを何よりも大切に思っていたが、わが家も戦火に焼かれ、母もおふうも行方知れずになった。二人をさがして戦野をあばれまわっているうちに、武田信玄に恨みを持つ空とぶ雲のおこんという女山賊にひろわれ、その情夫となっていたが、五右衛門の頭はいつも、何故人々がこのように戦いによって殺し合ったり、財宝のためにみにくい盗みや人殺しをするのかわからぬのであった。あるとき人質にした武士の妻於阿和が舌かみきって自殺したことから、その妹萬龜につけねらわれるが、萬龜は五右衛門を憎みながらもその人間にひきつけられた。ある時、おこんの一味が海賊船からかすめて山へ運んだ財宝から、海賊の不知火太郎と意気投合して、海賊の本拠を襲ってとりあげた財宝を、貧しい村人たちに分け与えようとしたが、それはかえって村のあいだにみにくい争いをかもし出し、死人の出るさわぎとなった。五右衛門は、人間の生きる目的は何か、何が一世で大切なものであるかとの大きな疑問をいだいたまま、一人当のない旅へ出るのであった。