藤川悠紀子バレー団の「白鳥の湖」の公演を客席の一隅から見物していた相良耕二とくるみ夫婦は、若くして逝ったバレリーナ北園冴子とその愛人木下孝夫との悲恋を想い浮べるのだった。当時村井病院の外科医の耕二と看護婦だった杉山くるみとは相愛の仲だったが、ちょうど二人がバレーを観に行ったとき、北園冴子は交通禍にあい近くの村井病院へ運び込まれた。冴子はこのためバレリーナとして再起不能になり、絶望した彼女をいたわり慰める孝夫の愛情には、くるみや耕二も胸をうたれるものがあった。折も折、耕二との結婚に大きな障害の起ったことに悲観したくるみは死を決して失踪したが、耕二は彼女の行き先と思われる山のホテルへ追って行って、くるみの姿を発見した。しかし同時に若い男女の心中のあることを知らして来た。行って見るとそれは冴子と孝夫であった。冴子は息絶えていたが、危篤の孝夫の手当をするために、くるみのことを心配しながら、耕二は山を降りなければならなかった。深い霧の中に突然車の前を横切る白い人影があった。急停車した車の傍には、気を失ったくるみが横たわっていた。怪我はなかった。この時、松葉杖の音に見ると、断崖の上にとまっていた車の傍に白いドレスの冴子が立って、こちらをむいてほほえむと共に、車と共に霧の中へのまれて行ったのだった。