明治もなかばを過ぎた頃のこと--真船五郎が良移心頭流の泉竜太郎を頼って、はるばる郷里岩手から上京した。過日の警視庁武術大会で講道館の横川作太郎に敗れて以来、竜太郎は病床に臥していたが、息子の猛房とその妹珠子は幼馴染の五郎を快く迎えた。まもなく竜太郎は警視庁武術世話係を解かれ、横川がそれに代った。その頃、五郎は講道館に通い、横川に師事していたが、それを知った猛房のために泉家を追われ、親友の新聞記者小坂の下宿に移った。ある日、馬車にはねられた少年を助けた五郎は、立花加代子と知り合った。加代子は五年前に別れた横川の娘だった。加代子を嫁にとすすめる横川の言葉に五郎が応じなかったのは、珠子の面影が忘られなかったからだ。その直後、暴漢と喧嘩をした五郎は講道館を破門された。しかし、彼の前途を惜しむ横川は、鎌倉の寺に預けた。一方、父に死なれた珠子は、兄猛房が日向へ修行の旅に出たあと、叔母の料亭に身を寄せているうち、市会議員の酒井から妾になれといい寄られ、それを救ったのは小坂だった。小坂は新聞社乗取りをたくらむ酒井に筆誅を加えたことから、酒井一味の暴漢に襲われた。五郎は小坂の病室で思いがけなく珠子に逢い、猛房が帰京していると聞いた。その猛房から果し状を受け取った五郎は、上野寛永寺境内で、泉門下の鬼鞍と門馬を叩きつけ、猛房は初めて道と術のちがいを目のあたりに見たと感動するのだった。駈けつけた珠子を、猛房は五郎に押しやって「真船君……妹を貰ってくれないだろうか」といった。