不世出のジャズ・シンガー、ビリー・ホリデイ。その44年の生涯は波乱の連続だった。10代半ばで生活のために身体を売り、過酷な人種差別と闘い、麻薬と酒に溺れて幾度となく逮捕され、身も心もボロボロになりながらステージに立ち続けた。だからこそ彼女の歌には凝縮された生が刻印され、20世紀屈指の伝説となったのだ。そんな彼女の人生に共感した若き女性ジャーナリスト、リンダ・リプナック・キュールは、1960年代から10年を掛けて関係者にインタビューを重ね、時には何者かに妨害されながらもビリーの伝記を書き上げようとした。ところが、志半ばにして、リンダは不可解な死を遂げる。この度発見されたリンダが遺した200時間以上に及ぶ録音テープと、ビリーの貴重な映像によって構成されたのが、本作である。インタビューに応じたのは、トニー・ベネット、カウント・ベイシー、アーティ・ショウ、チャールズ・ミンガス、カーメン・マクレエといった錚々たるアーティストから、ビリーのいとこや友人、ポン引き、彼女を逮捕した麻薬捜査官、刑務所の職員まで多岐に渡る。彼らの生々しい証言と貴重なホーム・ムービー、過去の資料映像、秘蔵写真によって、謎に満ちたビリーの人生が、まるでサスペンス映画のように解き明かされていく。圧巻のライブ映像では、黒人差別の実態を赤裸々に綴って世界中にセンセーションを巻き起こした名曲『奇妙な果実』を始め、ビリーの歌唱シーンが最新技術を駆使したカラー映像で甦る。