東京湾岸に広がる高層マンション群。埋立地にあるこの新興住宅地は、中流所得層にとってあこがれの住居だ。順一(小林政広)は、新聞社で働く高層マンションの住人。妻は癌で数年前に亡くなり、今は娘との二人暮しである。ある日、事件が起こった。中学生の娘が、学校の教室で同級生の少女に刺し殺されたのだ。妻を失った順一は、続いて娘も失い、生きる希望を、なくす。勤めていた新聞社をやめ、引きこもりの生活を続けていた順一は、一年後、北海道に肉体労働の職を得る。順一は、収容所のような民宿で寝泊りし、毎日夜明けに起きて、鉄工所へと向い、働く。帰宅すると、日没とほぼ同時に眠りにつくのだ。そんな順一は、民宿で賄いの仕事をしている女、典子(渡辺真起子)と出会う。典子は、順一の娘を殺した子の母親だった。典子もまた、身を隠すように東京を離れ北海道の僻地でひっそりと生活を営んでいたのだ。被害者の父親と、加害者の母親とが、偶然にも顔を合わせた。二人は、毎日顔を合わせるものの、互いに名乗ることもなく、言葉を交わすこともない。それでも、順一は原罪を背負ったかのように生きている典子が、次第に、かけがえのない存在になっていく。 ある日、順一は、コンビニエンスストアでプリペイド式の携帯電話を二台買い、一台を典子に渡す。それが順一にとっての愛情表現であったのだ。しかし、頑なに他者を排除して生きていた典子は、それを突き返す。そして、順一を徹底的に拒絶する。ところが、典子は、順一を拒絶すればするほど、自分の内部で、何かが変わってきていることに気付き始める。乾ききった典子の心に、次第に、潤いがただよう。今度は、典子がコンビニで携帯電話を二台買い、その一台を順一に渡す。しかし、順一は、その携帯電話を、屑篭に捨ててしまう。 二人は、心を通わすことが出来るのか。二人の間に、愛は、芽生えるのだろうか……?