金属片やチェーンソーなども楽器として使用し、1980年代に日本でも人気を博した、アインシュテュルツェンデ・ノイバウテンのメンバーであり、ベルリン・アンダーグラウンドの重鎮アレキサンダー・ハッケ。彼が最初にイスタンブールとその音楽に出逢ったのは、映画「愛より強く」(06)の音楽制作をしている時だった。イスタンブールの音楽シーンの魅力に取り付かれた彼は、その魅力の秘密を求め、現地の音楽家たちとセッションを重ねていくことにした。西洋音楽をやり続けてきたハッケにとって今回の旅の目的は、エレクトロニカや、ロック、ヒップホップ、そして民謡や大衆音楽に至るまで、幅広いジャンルを奏でるイスタンブール音楽の多様性に最大限触れること。そして、町のあらゆる所に溢れ、そこに住む全ての人達から深く愛されているイスタンブールの生きた音楽シーンをカメラに収めることである。そのために彼は、イスタンブールでもっとも西洋的な場所であるベイオール地区の由緒あるブユック・ロンドラ・オテル(グランド・ホテル・ド・ロンドン)を拠点とした。ハッケは、いかなるハードディスクやフィルムもこの街が醸し出す多様性、そして音楽や映像の圧倒的な力を十分に写し取ることが出来ないと実感していた。ただ、全てを収め切れなかったとはいえ、彼の鞄にはその魅力がぎっしりと詰め込まれた。個性豊かな人々たちが作り出す魅惑的な音楽によって、この街に住む多種多様な人々の心と心とが繋がり、私達はいつしかその魅力の虜となっていくのである。