岡田秋夫と山口五郎は、同じ学校の出身で、今でも「うきよ」という小さい飲み屋の二階に一緒に下宿していた。二人とも貧乏暮らしで、岡田は夜間中学の英語の教師、山口は画を書いているが、東京都のある地区の公会堂の設計図の懸賞募集に目下応募中という所で、何かにつけて助け合っていた。岡田は音楽に関心を持って、ヒマさえあれば美しい声で歌を唄っていた。そして彼はハワイで生まれて、母が死んでから父を残して日本の学校で青少年時代を過ごしたが、戦争のため父親と消息は立ち消えとなってしまい、今にしてその面影を懐かしみハワイ時代の思い出に日夜を過ごしていた。一方「うきよ」の女将のみきは、初婚に失敗して二人の子供を残したまま家出し、現在の亭主松吉と連れ添ったが、子供の事が忘れられず、互いに再会を願っていたところ、偶然にも岡田が救った子供の花売り娘の君子こそみきの子供であったが、姉の千枝子は母親の罪を難じ名乗ることを許さなかった。しかし岡田は一目見て千枝子を好きになってしまった。山口は懸賞の30万円を夢みてダンサーのマリーを愛していたが、彼の画く似顔絵はなかなか売れそうもない。岡田と山口は今は亡き恩師の春元先生の未亡人の一人息子稔の相談相手となっていたが、千枝子が内職とする輸出人形の取引先に稔が勤めており二人は相愛となっていた。妹の君子は母親とは知らず毎日「うきよ」で花売りをしていたが女将のみきと亭主の松吉は一日も早く親子の名乗りをあげたかった。ついにその日が来た時には、山口はマリーにだまされ、久美子の好意がかえって30万円をフイにしたが久美子の愛を受け取る事ができた。しかし、岡田は恋はあきらめても望みのハワイの父からの便りを受け取る事が出来た。それは君子のお蔭であった。