瀬戸内海の平和な市--市長の立花卓造の家に一通の脅迫状が舞いこんだ。五十万円よこせと書いてあった。翌日、卓造は市長室で推理小説マニアの秘書酒井辰枝に、事件を看破された。彼は助役の山根に相談した。そこに電話がかかってきた。声の主は速達を卓造のもとに送るといった。速達の内容は、娘の咲子に現金を持って喫茶店“旅路”に来いとあった。事件のことを元市長運転手の永井は妻に話した。弟の貞次は失業してぶらぶらしていた。市政ボスの神長は山根となにごとか密談した。翌日、問題の喫茶店--犯人は厳重な警戒を感づいて、計画中止の電話を市長夫人にかけてきた。市長宅では、町の有力者が集って相談をはじめた。神長は暴力団の一掃を主張した。とんだとばっちりを受けた浪千鳥一家の仁吉親分は大むくれ。あわてた森下署長は人民党支部を捜索した。書記長は神長の息子達三とわかり、とんだ藪蛇で伝右衛門は大あわて。警戒は日に日に厳重になった。水月楼で山根は妾の花江と密会、これを発見されて妻君にさんざん油をしぼられた。かくして、脅迫事件は町中をてんやわんやの大騒ぎにしてしまった。市長室の電話は夕方になると鳴った。相変らず脅迫はつづいた。市長選挙をひかえ、保守党・社民党の両幹部が町にのりこんで来た。市長の息子長太郎と友人の江川もやって来た。犯人は市長夫人に美術館のゴッホの絵の裏に金をかくしておけといって来た。今度はゴッホの絵が贋物だということがわかっただけで、犯人逮捕はまたも失敗。長太郎たち町の若いものは、脅迫事件で町の不正が暴かれたのを喜んだ。犯人は最後の脅迫の電話をかけて来た。指定の場所、町の繁華街に警戒網がしかれた。貞次はその中を、東京行の列車にのるために急いだ。辰枝がその後を追った。犯人は現われなかった。翌日、町に平和がもどった。市長室では卓造が得意気に、辰枝に市長選挙の抱負を語っていた。