お京はタイガーサーカスの花形で、戦時中このサーカス団にころがり込んでお京の夫となった病弱な晋吾の代りに、実質上の団長格でもある。娘の泰子はまだ中学生だが芸の才能はすばらしく、お京は泰子が後継者となる日を楽しみにしている。だが泰子自身は高校へ進みたいと思っていた。ある日晋吾は幼馴染の伊吹和子にあい、実業家だった彼の父の遺産を和子があずかっているのを知り、実業家として再出発しようと決心する。お京はサーカスを止めることに反対だったが、夫や娘の将来を考えて座員達と別れた。お京は奥様修業に身を入れるが、晋吾や泰子はそんなお京を半ば頼もしげに、半ば心配そうに見守っている。その頃、お京は泰子の学校の授業参観やPTAの席上で常識はずれの失敗をやり、他の父兄からヒンシュクされるという事件が起った。そのあと、泰子の誕生日に級友達を招待したが、来たのは和子の娘光子だけだった。以来、泰子は学校へも行かなくなった。晋吾の社長就任の祝賀会でも、お京の善意がまたまた失敗をまねいた。来賓たちは彼女の前身を噂しあい、一方、晋吾と和子の過去のロマンスまでが口の端にのぼった。お京はいたたまれぬ思いだった。一生懸命やろうとすればするほど夫や娘に恥をかかせることになる--お京は泰子の身柄を和子に頼んで、ついに家を出、サーカスに帰った。いまは気持を直して通学する泰子は、サーカスの巡業先に母をたずね、家へ帰ってくれるようとりすがったが、お京は聞き入れず、“ママと一緒にここにいます”という泰子を冷たく追いかえした。そのお京の瞳には、熱い涙がひかっていた。