シベリアからの季節風がきびしくふきすさぶ奥出羽の丘陵地帯。米代高校の那村文江は大学進学をひかえ、はげしい進学熱に燃えていた。ひそかに思慕をいだく幸田先生にはげまされながら。しかしわずかに国有林によって炭焼に生計のかてを求めている文江の家では大学進学はとうてい夢にすぎなかった。娘の望をかなえてやれぬ文江の父は酒を飲んで荒れていた。父も苦しんでいる……こう知った文江は、彼女の村から更に五里も山奥の避地、深沢村の中学に助教として教鞭を取ることとなった。古い因習が支配する村、校長斎木や教頭古賀の無理解も生徒の明るい顔の前にはふき飛んだ。ただ文江の胸を暗くするのは、突然東京に去った幸田先生のことだった。しかし理想家肌の安城の発案と皆の協力で図書室を作る文江には新しい喜びがあった。ここにも校長たちの圧迫があったが文江らは負けなかった。今年も冷害、暗い二学期を迎えた文江は急死した安城の後任となった。生徒の一人芳江が東京に身売りした。その頃、妹の幸枝が結婚するからと別れにやってきた。しかし文江の父は幸枝の嫁入り支度のため食肉解体作業員にまでなったことを知って暗然とした……。奥山羽の山々が再び白一色になろうとする時、就職講話で労働条件について質問した一人の生徒に校長はリンチを加えた。そしてこれに抗議した文江は学内の秩序を乱したという理由で馘首された。文江は、いつしか心の杖ともたのむ幸田先生のいる東京に向っていた。しかしそこで見たのは、愛する人を失って呆然とした幸田先生の姿だった。ただあいまい宿の女中となった芳江に卒業証書を渡してやれたのがせめてものなぐさめだった。悄然と故郷に帰った文江を迎えたのは、意外に文江の復職を知った子供たちのうたごえだったのである。