伊賀の国二万三千石の貧乏大名柳生家には、百万両の秘密の所在を封じ込んだ「こけ猿」という壷がある。時は八代将軍吉宗の世。「こけ猿」の由来を知らぬ当主対馬守は暴れん坊の令弟源三郎にこの壷を与え、司馬道場に婿入りさせた。ところが道場の師範峰丹波は、師の娘萩乃に心をよせるため、源三郎の婿入りを喜ばない。スリの与吉は源三郎から「こけ猿」を奪い、この丹波に小判五十枚で売りつけようとしたが、これを奪ったのが隻眼隻手の怪剣士丹下左膳だった。トンガリ長屋に、山吹の師匠お藤と、孤児ちょび安と住んでいる。一方柳生家では「こけ猿」の秘密を知り大さわぎ、さっそく壷を求める家臣が八方に散った。だがその頃、左膳と源三郎は、司馬道場を乗取ろうとする丹波の策略を知り、左膳は壷を源三郎にわたしたが、いつの間にか大岡越前守の隠密泰軒の手で、壷は偽物にすり替えられていた。それを知らぬ源三郎は、道場に乗り込んで丹波の奸計を破ったものの、丹波は復讐の手段として萩乃とちよび安を拐った。一方本物の「こけ猿」は越前守の手にわたったが、中から出たのは柳生の先祖石舟斉が書いた反古があるばかり。百万両の夢は破れた。萩乃を奪われた源三郎は、単身丹波一味の屋敷にかけつけたが、衆寡敵せず、すでに危い。一方ちょび安を救うために、左膳もこの屋敷に向って宙を飛ぶ。群る刀の前に、ドッと倒れた源三郎の耳に、左膳の怒号が間近く聞えた。