琴の筑紫会で天才をうたわれる光雄と、その家元白鳳の娘伊佐子は恋仲であったが、光雄はこの古い世界にたえられず、屡々家出し、その間に伊佐子は筑紫会の理事長鈴木彦兵衛と縁組した。だが彼女が結婚する直前、九州別府の演奏会に出席した光雄と伊佐子は、お互に深い愛情を確認しあうのだった。そして花嫁は、結婚式場から姿を消した。だが、二人の生活は、冷い世間の中であまりに苦しかった。場末の興行場では光雄の腕も伊佐子の才能も認められず、嘲笑と野次をあびるばかり、遂に鈴木彦兵衛の手引で、伊佐子は恥をしのんで筑紫会に復帰した。光雄は琴による一大シンフォニーを作曲していた。これが世に認められれば、晴れて二人は結ばれるはずだった。ところが再び琴の古い世界が、二人の再会をさえぎった。琴の世界を守るために家に帰らねばならぬ伊佐子、光雄は自分の恋が、出来上った曲の中だけに実ったのを感じて、大成功に沸き立つ会場から、一人淋しく去るのだった。