文久三年、武力増強をもくろむ幕府は、某国との間に売国的な条件で兵器購入をとりきめるが、その契約書を何者かに奪い去られた。事の発覚を恐れる新老中小栗上野介は、密書を携えた鍔鳴り楓と呼ばれる居合抜きの達人、楓月太郎が江戸の薩摩屋敷に向ったと知り、奥医師黒塚六庵に命じて新徴組隊士神林らを川崎にさし向け、月太郎迎撃を図った。万一を慮る月太郎は深川の鉄火芸者おもんに密書を薩摩屋敷へ届けるように頼んで、敢然と新徴組の剣林に飛び込むのだった。だが、不覚にもおもんは密書をやくざな義兄浅吉に奪われ、その後、密書は東洋の梟と異名を取った大悪党白牙仙人の手に渡ってしまった。おもんが白牙の謀略にかかったとき、忽然と現れて白牙の子分十字架の安の手首を斬り落したのは、月太郎と瓜二つの高窓一角だ。彼は振袖長屋に妹千鶴と暮らす磊落な浪人で、千鶴は月太郎の許嫁である。白牙の手中から密書を取り戻すため、一角は月太郎に助力を申し出るが、そのころ白牙は密書から一枚の玻璃板写真を発見、幕府の機密文書を持った異人シェリコと六庵が写っていることから、「三つ目狼」と呼ばれるシェリコの秘密を知った。白牙は嘗て上海でシェリコに裏切られ、ひそかに報復の機会を狙っていたのであった。かくて「三つ目狼」をめぐって善悪三巴の争奪戦が展開され、遂に白牙の巣窟で月太郎は白牙を斬るが、相手の短銃がシェリコの息子カールを斃した。駈けつけたシェリコは悔恨の涙にくれながら、愛犬の首輪にかくしてあった「三つ目狼」を一角に渡した。それを胸に、西郷吉之助のいる京都に向う一角とおもん、見送るのは月太郎と千鶴である。