大阪は天満橋の近くで喫茶店をひらいている雪子は、前身が芸者だったことから、娘の葉子と船場の大問屋の息子島村との婚約がこわれたので、悲しみに沈む葉子に、生涯誰にも話すまいと思っていた「秘密」を打ち明けるのだった--。雪子は西横堀の瀬戸物卸商伊吹屋の嬢はんとして、十八の春を迎えた。降るほどの縁談の中で、母は北浜の井村家との話に乗り気だが、雪子は店の小番頭秀吉に心を惹かれていた。ある日雪子が中座での温習会に「娘道城寺」を踊ったとき、小鈴という女が大和屋の女将に頼んで、三味線を弾いた。幕がおりると小鈴はパッタリ倒れ、楽屋で息をひきとった。そして、雪子は大和屋の女将から、小鈴が自分の生みの母だと聞かされた。一方、秀吉は東京に出発し、叔父の世話で新聞社の給仕になった。秀吉は弁護士志望で夜学に通って勉強することになった。雪子は秀吉からの長距離電話に胸を躍らせたが、話の途中で切れてしまった。関東大震災の日のことである。それきり秀吉からはたよりもなく、雪子は傾きかけた家運を助けるため、井村家に嫁いだ。しかし、芸者の子ゆえに井村家を追われた。その後、大和屋の女将のはからいで芸者になった雪子は、思いがけなく太左衛門橋の袂でうらぶれた姿の秀吉に再会したが、秀吉には妻子があった。二人は淋しく別れた--。雪子の述懐は終った。だが、葉子と島村の心は固く結ばれていた。二人のめざす道は、かつて雪子が願って叶えられなかったものだ。雪子は葉子を抱きしめて、東京へ行くという二人の前途を祝福するのだった。