電気技師秋元泰彦は熊本のダム工事場視察のおり、竹井事務所長に誘われて、隣り村の旧家本野順三を訪れた。順三は、一人娘和江と、小作人の娘で孤児となった信子の三人で、わびしく暮していた。一夜を順三の家で明かした泰彦は、自分と同じ境遇にある信子に同情し、愛情を感じ始めた。帰京した泰彦には従妹富子との縁談が待ち受けていたが、それには耳もかさぬ泰彦は再び出張で熊本へ発った。しかし、信子が村の豪農の長男と結婚するという順三の話に、泰彦は愕然とした。泰彦は傷心の足どりも重く東京へひきかえしたが、その夜九州を襲った豪雨は本野家を流し、信子たちの消息を絶ってしまった。処が泰彦は、学友田所の渡米送別会で神楽坂の料亭におもむいた時、はからずも、和江のために芸者に身を落した信子に会った。二人は相擁したが、嫉妬に狂った富子の横槍で、信子は泰彦の前から姿を消し、キャバレーで働く事になった。一方泰彦は、毎晩酒色に溺れ、叔父と激論し家を出て、夜の街をさまよううちに、帰国した田所に会い、彼の工場に入れてもらった。その頃信子も、和江の病院の女医いずみの世話で、いずみの兄の工場へ工員として入った。そして工場の運動会の日--信子は泰彦に会ったが、いずみの結婚の相手が泰彦である事を知って驚いた。田所は、泰彦を高崎の工場長にし、妹のいずみと結婚させたい腹をもっていた。それにも増して信子を絶望のどん底に陥したのは、和江の自動車事故による死だった。悲嘆にくれた信子は、和江の遺骨を抱き熊本へ帰った。思い出の川の面には“五ッ木の子守頃”が流れ、信子が死を決心した時、泰彦の呼ぶ声がきこえた。二人は始めて強く生き抜こうと抱き合った。