小泉先生はちょっとは名の通ったブルジョワ歴史学者だが、学問上の論争で古巣日新大学を去って以来は、読書と高校用参考書の執筆に無聊をなぐさめる浪人暮しである。彼の二人の息子たち、大学生の順平、高校生の篤志はそのような父にあきたらない。憂欝インテリ型の順平は新聞社の入社試験に失敗してからは冷酷なる社会への反抗と称して、篤志をかたらい友人相手の高利貸をはじめる。父の説教もものの数ではなかった。彼の左翼的言辞を先生は気にするが、恒子夫人はパチンコも共産党もハシカみたいなものと達観してすましている。母としての自分の愛情に自信をもっているゆえでもあった。この家の下宿人、優男の福沢君は先生の姪、少々アプレがかった映画雑誌記者美代子さんに参っているが、したたかな彼女に奔弄されるばかり。当の先生もむかしの教え子と自称する犬飼なる怪狼人に料亭に連出され、そこの女将お須磨さんに老いらくの艶情をおぼえる。美代子さんは恒子夫人のお膳立てで先生の後輩鴨井助教授と見合いするが、「禿はきらいよ」と一蹴、しかし厚かましい鴨井さんは彼女の社に三回もおしかけプロポーズする。するうちに順平の事業が闇金融取締りにひっかかり、犬飼の尽力でようやく釈放はされたが、このところ彼も失意つずきである。そうした青年の在りようをみるにつけ、先生は教壇復帰の希いはつよまるが、論敵で文学部長の久松教授との折合いがつかず、日新大学へのカムバックはかなわない。しかし順平の心にも篤志の級友春江との初恋で仄かな希望が芽ぐみはじめ、美代子さんも福沢君の純情にほだされて彼と結婚することになった。お須磨さんが犬飼の手中にあることを知って一時はがっくりした先生も、やがて正岡総長の礼を尽した懇請により、日新大学の教壇に返咲くこととなった。