アラン(イアン・バネン)は女友だちセイラ(ヴァネッサ・レッドグレイヴ)のしつこいまでの愛の息づかいに、嫌気がさし身も心も疲れきっていた。彼はせめて見知らぬ外国をめぐり歩くことで心の安らぎを覚えようと、セイラと一緒にイタリアのロッカという風光明媚な海辺の村へやって来た。そしてその時、沖に碇泊するヨット、ジブラルタル号の持ち主でアンナ(ジャンヌ・モロー)というどこが謎めいた陰を宿す美貌な女性を知った。アランはひと目彼女を見て心を奪われた。そして旅行のなかば頃からけわしくもつれ始めたセイラとの仲も、アンナの出現によって決定的な破局へ向った。アンナはどんな男にでも親切だった。なかば気晴らしのように夜ごとに男をかえて、美しい肉体を暗い夜の底にさらけ出して見せた。アランも最初はそんな男たちの一人にすぎなかった。アンナは自分の過去を隠そうとはしなかった。彼女はジブラルタル号でスチュワーデスをしていて、その持ち主のアメリカ人富豪の愛を得て結婚したが、突然その男が自殺、彼女は莫大な遺産を相続したのだった。それ以来彼女は港から港へとめぐり始めたが、彼女のそうする理由がもう一つあった。それはたった一度ではあるが、あるひとりの船乗りと素敵なひとときを過ごしたことが彼女は忘れられず、名前も知らぬその男を探し求めていたのであった。そして人の噂を耳にしては訪ねてみるのだったが全部人違いだった。アランも彼女と一緒にアテネやアレキサンドリアへ足をのばしたが無駄骨だった。そんなある日アンナとアランはエチオピアにいたという船乗りの消息を聞いた。だがそれもやはり人違いだった。ところがアンナの顔には落胆の色はなかった。むしろ晴れやかなものだった。もうその船乗りはいなくてもよかったのだ。長い捜索の航海の間に、アンナはアランを愛し始めていたのだった。