富士フイルムがアカデミー賞の技術部門で受賞していたことだけは知っていた。今回のイヴェントでは、その受賞に至る経過や背景をWOWOWドキュメンタリー番組『ノンフィクションW』の一篇で紹介され、観賞後は受賞者の一人が更に詳しい情報を話してくれるという、とても上手にプログラムされたものだった。特にゲストスピーカーのキャラクターや話の巧さ、そしてサービス精神もあって、トークショーは大いに楽しんだ。話を聞けば、富士フイルム社は日本ならではの緻密な開発力があるという印象を持った。話しの中で最も感心したのは、アメリカ映画は製作予算にアーカイヴ費用を予め盛り込むというものだった。もちろん、日本では一般的な考えではないとも聞いた。このエピソードひとつ取っても、アメリカが映画を大切にしていることがよく解る。一方の我が国のアーカイヴ状況は、映画好きを悲しくさせるだけでなく、大いなる不安を抱かせるものだ。いや、国の貴重な文化の危機といって過言ではないだろう。アーカイヴ用フィルム「ETERNA-RDS」のアカデミー賞受賞が日本映画界が積極的かつ計画的アーカイヴ化へと向かう大きなムーブメントになって欲しいと切に思った。

昨年度のアカデミー科学技術賞を受けた、富士フイルムの保存用フィルム開発に関する今回のドキュメンタリー。つい最近の事なのに、私は懐かしい話を聞いているような思いがした。

もう三十年近い前のことになるだろうか。来日したマーティン・スコセッシ監督が、退色が激しくなって映像の保存ができないイーストマン・カラーから、もう一度、三色を組み合わせて映像の色を出すテクニカラーの復活を訴えた講演記事を、とても興味深く読んだことを今も忘れはしない。学生時代、文芸坐やフィルムセンターで、古いカラー映画を見るたびに、退色してピンク色になった画面に私はいつも幻滅していた。一方で、テクニカラーで撮られた「風と共に去りぬ」や「赤い靴」の制作当時とほとんど変わらない画面の美しさが、とても羨ましく感じていた。スコセッシ監督が言うとおり、テクニカラーの復活なしに映画の長期保存はありえないのか、と私は映画の未来に暗澹たる思いを、その当時は抱いていた。

しかし、時代が変わり、ビデオからDVD、そしてデジタル映像として映画がデータ化できるようになったことで、今は簡単に保存が可能になった。ところが、システムやハードの変革によって保存した映画がファイルから消えてしまうことがよくある、という危機的な現在の映像保存状況の説明から始まる、このドキュメンタリーで紹介された富士フイルム開発の保存法が、三色を組み合わせるテクニカラーの方式を取り入れているのである。三十年前のスコセッシ監督の訴えが、巡りめぐって日本の映像フィルム会社に生かされることになるとは…。私は、ドキュメンタリーの中で富士フイルムの開発チームの人たちが映画保存に向けて献身的に仕事をする姿や、後のティーチインで登壇された開発者の一人・平野浩司さんのお話を聞きながら、懐かしさと嬉しさで胸がいっぱいになった。

このドキュメンタリーの一番大事な観点は、映画界の現状でなく、昔の名作を懐かしんでいるわけでもない。映画の未来を見つめていることだ。いつの時代の映像作家も、先人が撮った名作や撮影方法を見て学び、自分のものにして映画を撮ってきている。だからこそ、製作当時のままの状態の映画、映像を未来まで残すことが何より重要なのだ。今年公開された映画の中にも、五十年後や百年後の映画の原点になるものもあるかもしれないのである。未来に登場するであろう名作の「種」を大事に育ませている、保存用フィルム開発に携わる富士フイルムの方々のさらなる努力と活躍を、映画好きの私たちは期待してやまない。

WOWOWは実はオリジナルのドキュメンタリー番組を持っています。タイトルは「ノンフィクションW」。(「W」は笑ってるんじゃなくてWOWOWのWだろう)番組でとりあげる内容は、たとえば「女優・渡辺美佐子の戦争と初恋」「蜷川幸雄~それでも演劇は希望を探す」…映画だけでなくスポーツや音楽、演劇といった、WOWOWらしいテーマを掘り下げていて気になります。

その試写会があるというので、行ってきました。テーマは「アカデミーを救った"消えない”映画フィルム」by富士フイルム。「趣味は工場見学」と言い切る私としては見逃せません。

富士フイルムといえば、フィルムを使わずにX線写真が撮れる「イメージングプレート」は知っていましたが、これは初耳。実は2012年のアカデミー科学技術賞を受賞してたんですって!

映画のフィルムの素材は昔は燃えやすいセルロイドで、火事で焼失したものも多いと聞いてたので、デジタル化によってHDDだけでなくクラウド保存するようになってからは、バックアップ完璧!と思っていました。しかし実態はそうでもなく…。ある映画プロダクションが、コンテンツのすべてをクラウドにのっけていたら事故ですべて吹っ飛んだ、なんてこともあったそうです!デジタル時代の映画データ保存にはむしろ以前よりも懸念があり、そこに富士フイルムが出てきます。

白黒フィルムは銀を使って金属で固定するので、カラーフィルムより劣化しにくいんですって。カラーが100年なら白黒フィルムは500年といいます。その特性を利用して、3色分解した原板を銀で固定した版を3枚作り、上映するときに黒→赤、黒→青、黒→緑に置き換える、という原理。ちょっと不便だけど保存性が高い。保存用フィルムだからそれで良いのです。

それが「エテルナRDS」
http://fujifilm.jp/business/broadcastcinema/mpfilm/archive/eternards/
ライバルに負けない日本クオリティで、アカデミー賞をゲット!パチパチパチパチ。

と、あらすじが長くなってしまいましたが、試写会ではこの番組を上映した後、この製品のハリウッド展開を担当した平野さんが登場!容器をあえて"ピザ箱"にした理由や、デジタル画像の不自然さを改良する工夫など裏話も聞くことができました。ななな~んと、オスカー像やこのフィルムロールそのものも、触らせてくださいました!

ドキュメンタリー番組は見ますが、最近ちょっと演出過剰というか、台本を先に書いてそれに絵を当てはめたような、感動を"誘導する"感じの番組が多い気がします。「すごい人でしょ、だから感動して!」と持ち上げるような。でも「ノンフィクションW」は、番組で取り上げられている人と一緒にハリウッド各所を訪ね歩いているような、リアルで自然な感じがあって好感をもちました。WOWOWにとって身近なテーマを選んでいて、テーマに対する理解が深いからかな、と思います。

ここ何年も有料チャンネルは契約してないんだけど、この番組は見たいなぁ…。DVDでレンタルできればいいのに。学校の仲間にも見せてやりたいです。以上。

映画の中には、同じ監督の以前の作品を見たり、当映画が参照していると思われる作品を何本も見たりしないと、充分に楽しめないものが沢山ありますが、どこを探しても容易には見られない場合がよくあり、日頃から映画作品を保存することの重要性を強く感じておりました。

デジタルならば、保存場所が少なくて済むし、取り出しが簡単なので、アーカイブを作成してオンラインで借りられるようになるのではと思っていましたが、 今日このドキュメンタリーを拝見して、デジタルの方が失われ易いと分かり驚きました。

この技術的成果で保存された映画を映画ファンの要望に応えていつでも見られるように しなければ、文化財保存や興行的目的のためだけでは、勿体無い気がします。制作から一定の年数が過ぎた作品は公共図書館から借りて見られるようにして欲しいと思います。レンタルビデオ屋は人気作品に限られてしまっていますので。また、ハリウッドだけでなく、全世界的に必要性が認識されて、この技術が利用されるようになると良いと思います。

それから、デジタル技術の限界についてですが、映画史を振り返れば、限界 を活かしたり超える方法を編み出したりして名作を産んできたので、今回もそうなるのではないかと期待して待っています。

私としては、“消えない”映画フィルムは素晴らしいけれど、消えなくできるデジタル技術が早く出現して、オンライン上に映画のアーカイブができて欲しいと思っています。

まずは、誇らしい。
2012年2月、富士フイルムの『ETERNA-RDS』が米アカデミー賞科学技術賞を受賞。

今回このドキュメンタリーを観るまでこの輝かしい業績を知らなかったので、いみじくも授賞式のスピーチのように「映画の世界に大きな貢献を果たせた」ことを同じく映画を好きな日本人としてとても誇らしく思う。と、同時に、このドキュメンタリーは“急速なデジタル化における映画の保存”という大きな問題を教えてくれる。

簡単・便利・しかも安価なデジタルデータの安定性のなさ・不自由さは自分の仕事でも身に沁みているが、映画業界はちゃんとお金をかけてどうにかしているんだろうなぁと勝手に思い込んでいたため、実はそうでもない現実にいささかショックを受けた。予算がなければ後世へつなぐ財産としての保存なんて眼中にない、もしくはやりたくても二の次三の次。それは何処も同じということか。

意識を持たなければ、このデジタル変革期に製作された映画たちは50年後観られなくなってしまうかもしれない。ぞっとする。意識といえば、上映後のティーチインでは貴重なお話をたくさん聞くことができた。中でも、アメリカの大手の映画にはその作品の興行的成功失敗に関わらず、保存のための予算が組まれていること。一方、日本では後手に回っている現状であること。自国の誇るべき文化・財産として、映画を意識しているか否か。その違いなのかと寂しく感じた。ともあれ、富士フイルム開発チームの頑張りは素晴らしい。

ティーチインで聞いた、ETERNA-RDSのパッケージ。従来のフィルム缶はカッコいいけれど、フィルムにより負荷のかからない段ボールパッケージを開発し、でもやっぱりカッコいいからお望みの取引先にはフィルム缶も缶だけ納品する。よりよい製品のための細かい工夫とサービスを忘れない。これぞ、ジャパン・クオリティ。

憧れ半分華やかに見えるハリウッドと、小田原の居酒屋での開発チームの新年会。ぱっと見のこの落差も、やはりジャパン・クオリティ。心意気です。

「ノンフィクションW アカデミーを救った“消えない”映画フィルム」に参加しました。今回上映された番組は、3本とも事前にTVで観ていましたが、大きなスクリーンでみる番組はとても臨場感に溢れていました。

最近「イージー・ライダー」「カルメン故郷に帰る」「東京物語」など、デジタルリマスター版の作品を目にすることが多く、修復技術について考える機会はたびたびありましたが、日頃、何気なく観ている新作の裏側で、多くの技術者たちが映像コンテンツの保存を支えていることを初めて知りました。

富士フイルムの平野さんのお話しは、素人にもわかり易く興味深いものでした。一口にアーカイブ専用フィルムの開発と言っても、焼き付け時の露光のコントロールから、輸送用パッケージの工夫まで、多角的なアプローチをされていることを知り、派手さはなくとも真摯にプロジェクトに取り組む大人たちの仕事が実にカッコイイと思いました。

また、WOWOW映画王の松崎健夫さんの進行は、膨大な知識に裏打ちされながらも、ご自身の活きた言葉で語っていただけることが魅力です。今回のプロジェクターの“黒色”の話題も、次回劇場で気にしてみようと思わせるものでした。

平野さん、松崎さんご両名とも、デジタル化の波を必然と受け止めながらも、シネマチックな映像体験にこだわりをお持ちのようで、映画愛に溢れたお人柄が伺えました。

アカデミー科学技術賞の楯や高価なポリフィルムの現物を触らせていただくサプライズもあり、大変充実したトークショーでした。

このような機会を与えてくださった、KINENOTE様に感謝申し上げます。